東京地方裁判所 昭和44年(むのイ)939号 決定 1969年5月20日
主文
本件準抗告の申立を棄却する。
理由
一、本件準抗告の申立の趣旨および理由は、被告人作成の昭和四四年五月一六日付「準抗告の申立」と題する書面記載のとおりであるから、これを引用する。
二、(一) 本件申立の理由の骨子は、東京地方裁判所裁判官が昭和四四年一月二九日にした勾留期間延長の裁判は、被告人(被疑者)に刑訴法六〇条一項一号、二号および三号に定める理由がないのみならず、同法二〇八条二項に定める「やむを得ない事由」もないのにも拘わらず、右各号および「やむを得ない事由」にあたるとしてなされたものであるから違法であるというのである。
(二) 一件記録によれば、被告人の勾留については次のような経過が認められる。すなわち、被告人(被疑者)に対しては、東京地方検察庁検察官の請求に基き、同月二一日、建造物侵入、兇器準備集合および公務執行妨害の被疑罪名の下に刑訴法六〇条一項一号、二号および三号の理由があるとして勾留状が発付され、さらに同検察官の請求に基き、同月二九日、右勾留の期間が一〇日間延長され、同年二月九日、同検察官は、被告人(被疑者)に対する右罪名の事実につき、身柄拘束のまま東京家庭裁判所に送致した。同日、同裁判所裁判官は、少年法一七条一項二号により、右罪名の事実につき、被告人(被疑者)を東京少年鑑別所に送致する旨の観護措置決定をし、更に同月二一日、右観護措置決定の期間を同月二三日から更新する旨の決定をしたうえ調査審判をし、同年三月三日、少年審判規則二四条の二第一項により被告人(被疑者)に対し刑訴法六〇条一項二号、三号に定める理由がある旨告知したうえ右観護措置決定を取り消すことなく少年法二三条一項、二〇条により右罪名の事実につき、同検察官に送致する旨の決定をし、右決定により右観護措置は勾留とみなされ、同月一二日、同検察官は被告人(被疑者)を右罪名の事実につき、東京地方裁判所に身柄拘束のまま起訴した。なお、その後、同裁判所裁判官は、同年五月七日、刑訴法六〇条一項二号、三号を理由として同月一二日より更新する旨の勾留期間更新決告をし、現在に至るまで勾留が継続している。
(三) 本件で不服の対象とされている勾留期間延長の裁判は、同年一月二一日に発付された勾留状にかかるものであるところ、以上の経過から明らかなように、被告人は右勾留の期間中の同年二月九日に東京家庭裁判所に送致されたのであるから、右送致に伴い右の勾留状の効力は消滅し、現在これに基く拘束は継続していない。(なお、被告人の現在の拘束は、少年法四五条四号の規定によつて勾留とみなされる同年二月九日付観護措置決定に基くものであり、一月二一日になされた勾留の裁判とは手続上は直接に関係しない。)
してみると、勾留期間延長の裁判に対し不服を申立てることができるのは、その基礎たる勾留状の効力が継続している間に限られると解すべきであるから、本件のような申立は到底許容することができない。
三、以上の次第で、本件申立は、不適法であり、その実体的な主張につき判断するまでもなく到底棄却を免れず、刑訴法四三二条、四二六条一項に従い主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 木梨節夫 裁判官 松本時夫 裁判官 小林一好)